「なし崩し」という言葉を、
「なかったことにする」
「話をうやむやにする」
という意味だと思っていないでしょうか。
しかし、「なし崩し」のもともとの意味は、借金を少しずつ返すことです。
そこから意味が広がり、現在では「物事を少しずつ片づける」
「少しずつ変化させて、うやむやにしてしまう」といった意味でも使われます。
つまり、単に「なかったことにする」という意味ではありません。
この記事では、「なし崩し」の意味や漢字、よくある誤用、
文化庁の調査結果、「うやむや」との違い、正しい使い方・例文まで分かりやすく解説します。
「なし崩し」の意味とは?
「なし崩し」は、「なしくずし」と読みます。
『デジタル大辞泉』では、主に次の3つの意味が紹介されています。
- 物事を少しずつ片づけていくこと
- 物事を少しずつ変化させ、うやむやにしてしまうこと
- 借金を少しずつ返すこと
共通しているのは、「一度にではなく、少しずつ進める」という点です。
たとえば、
借金をなし崩しに返していく。
なら、「借金を少しずつ返済していく」という意味になります。
「なし崩し」の漢字は「済し崩し」
「なし崩し」は、漢字では「済し崩し」と書きます。
「無し崩し」ではありません。
「済す(なす)」には、借りた金品を返す・返済するという意味があります。
そのため、
借金を少しずつ済す(返す)
→ 済し崩し
→ 物事を少しずつ処理する
という流れで覚えると意味を理解しやすくなります。
「無し=なくす」と考えてしまうと、
「なかったことにする」という誤解につながりやすいので注意しましょう。
「なかったことにする」という意味は誤用?
「なし崩し」を単に「なかったことにする」という意味で使うのは、本来の意味とは異なります。
たとえば、
約束をなし崩しにした。
という文章を、
約束そのものをなかったことにした。
という意味だけで使うのは適切ではありません。
「なし崩し」には、基本的に少しずつ進行・変化するというニュアンスが含まれているからです。
「完全になかったことにする」と言いたいなら、
白紙に戻す
撤回する
反故にする
など、文脈に合った表現を使う方が分かりやすいでしょう。
文化庁の調査では65.6%が「なかったことにする」と回答
文化庁の平成29年度「国語に関する世論調査」では、
借金をなし崩しにする。
という例文を示し、「なし崩し」の意味を尋ねています。
結果は次のとおりです。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| なかったことにすること | 65.6% |
| 少しずつ返していくこと | 19.5% |
| 両方 | 1.3% |
| 全く別の意味 | 5.0% |
| 分からない | 8.5% |
この例文で本来の意味とされる「少しずつ返していくこと」を選んだ人は19.5%でした。
一方、65.6%が「なかったことにする」と回答しています。
つまり、文化庁の調査では、本来とは異なる意味を選んだ人が大きく上回っています。
「なし崩し=うやむや」は全部間違い?
ここは少し注意が必要です。
「なし崩し=うやむや」とだけ覚えるのは不正確ですが、
「うやむや」というニュアンスを含む使い方そのものがすべて誤用というわけではありません。
現在の『デジタル大辞泉』には、
物事を少しずつ変化させ、うやむやにしてしまうこと
という意味も掲載されています。
たとえば、
当初のルールが、例外を重ねるうちになし崩し的に変更された。
なら、
少しずつ変更され、その結果として当初のルールが曖昧になった
という意味で使えます。
ポイントは、
✖️ なし崩し=単になかったことにする
○ 少しずつ変化させた結果、うやむやになる
という違いです。
なぜ「なかったことにする」と誤解される?
大きな理由の一つとして考えられるのが、
「なし崩し」という音から「無し崩し」を連想しやすいことです。
「無し」と考えると、
無くす
消してしまう
なかったことにする
という意味を想像しやすくなります。
しかし、正しい漢字は「済し崩し」です。
さらに、現在は「ルールがなし崩し的に変わった」のように、
結果的に物事が曖昧になる場面でも使われます。
そのため、「うやむやになる」から「なかったことにする」へ意味を広げて
理解している人もいると考えられます。
「なし崩し」の正しい使い方・例文
例文1:借金
借金を毎月少しずつ、なし崩しに返していった。
もともとの意味に沿った使い方です。
例文2:仕事
大量に残っていた作業を、なし崩しに片づけていった。
一度に終わらせず、少しずつ処理していく様子を表しています。
例文3:制度やルール
例外を認め続けた結果、ルールがなし崩し的に変更されていった。
少しずつ変更が積み重なり、当初の状態が曖昧になったことを表します。
例文4:計画
十分な議論がないまま、計画がなし崩し的に進められた。
段階的に既成事実が積み重なっていくような場面でも使われます。
「なし崩し」と「うやむや」の違い
両者は似た場面で使われますが、意味の中心が違います。
| 言葉 | 意味の中心 |
|---|---|
| なし崩し | 少しずつ進める・変化させる |
| うやむや | はっきりしない・曖昧な状態 |
「なし崩し」には変化の過程があります。
一方、「うやむや」は主に結果や状態が曖昧であることを表します。
そのため、
問題の責任がうやむやになった。
とは言えますが、それだけで「少しずつ変化した」という意味にはなりません。
「なし崩し」の類語・言い換え
少しずつ
最も直接的な言い換えです。
作業を少しずつ進める。
徐々に
時間をかけて段階的に変化・進行することを表します。
徐々に制度を変更する。
小刻みに
短い間隔で少しずつ行う場合に使えます。
じわじわ
変化や進行が少しずつ続く様子を表します。
辞書でも「じわじわ」「小刻み」「小出し」などが「なし崩し」の類語として挙げられています。
「なし崩し」についてよくある質問
「なし崩し」の読み方は?
「なしくずし」と読みます。
「無し崩し」と書く?
一般的な漢字表記は「済し崩し」です。
「済す」には「借金を返す」という意味があります。
「なし崩し」は「なかったことにする」という意味?
単に「なかったことにする」という意味ではありません。
もともとは「借金を少しずつ返す」、
そこから「物事を少しずつ処理する」という意味に広がった言葉です。
「うやむやにする」という使い方も間違い?
一概には言えません。
現在の辞書には、少しずつ変化させた結果、うやむやにするという意味も掲載されています。
ただし、単に「なかったことにする」という意味とは区別する必要があります。
ビジネスでも使える?
使えます。
特に、
なし崩し的にルールを変更する
なし崩し的に計画を進める
など、段階的に既成事実化されることを批判的に表す場面で使われることがあります。
ただし、誤解されやすい言葉なので、
正確さを優先する場合は「徐々に」「段階的に」などに言い換えるのもよいでしょう。
まとめ
「なし崩し」は、もともと借金を少しずつ返すことを表す言葉です。
そこから、
物事を少しずつ片づける
物事を少しずつ変化させる
その結果、うやむやにしてしまう
といった意味でも使われるようになっています。
整理すると、
本来の中心:少しずつ進める
よくある誤解:なかったことにする
漢字:済し崩し
です。
文化庁の平成29年度調査では、
「借金をなし崩しにする」を「なかったことにする」と理解した人が65.6%、
「少しずつ返していく」と理解した人が19.5%でした。
「なし崩し=全部なくす」ではなく、
「少しずつ崩していく・進めていく」イメージで覚えると分かりやすいでしょう。


